
ゴールデンウィークはみなさまどのようにお過ごしでしたか?
私は地元に帰りチャンバラ貝をたらふく食べるという念願を果たして帰ってきました。(なお、執筆時点の現在はGW前です)
どうもMIYA.TOMOです。
以前、とあるTechカンファレンスで、タレントマネジメントのSaaS製品を開発している「カオナビ」さんが(カオナビ社内では"オアシス"と呼ばれる)OSTの取り組みを紹介していて、モビルスでも同じようなイベントを実施できないものかと検討を重ね、先日、ようやく、モビルス社内でもエンジニア間の交流を目的とした第1回OSTを開催することができました!
開催した内容についてはWantedlyの記事にゆずるとして、こちらの記事では、OSTを実施するにあたりOSTの基礎を「OST実践ガイド――人と組織の「アイデア実行力」を高める – 英治出版」から学びましたので、その内容を共有したいと思います。
みなさまの組織でもOSTの開催にご興味がありましたら参考にしていただけると幸いです!
OSTとは

OSTは「実行したいアイデア」「解決したい課題」「探求したいテーマ」を参加者が提案し、それに賛同する人が集まって話し合うワークショップ手法です。
OSTの目的は次の通りです。
- 具体的なプロジェクトを生み出す
- テーマについて理解を深める
- 自ら行動を起こせるリーダーシップを育む
参加者が情熱を持てるテーマを選び、実現したい未来に向けて仲間を募って、具体的な施策を考案したり、課題を深く理解したりすることで、行動を起こせるようなリーダーシップを育むことが主な目的になります。
また、OSTはテーマについて理解を深めるための学びの場としても有効なワークショップです。特定のテーマについて、さまざまな視点から共通の関心を持つ人が集まり話し合うことで、新たな発見や視点が生まれることもあります。
OSTの起源
OSTは、組織開発コンサルタントであり、写真家でもあるハリソン・オーエンによって1985年に開発されました。彼は経験した2つの出来事がきっかけでOSTを考案したと語っています。
1. 実行委員会がない成人式
アフリカのリベリアの集落を訪れた際に、500人あまりの人々が参加する成人式が行われていましたが、そこには実行委員会らしきものがいないことに気がつきました。しかし、全体を進行するリーダーがいないにも関わらず、全体が調和を持って進行していたそうです。
この成人式は「全員が自律的に動き」「ひとりひとりが自主的に考えながら行動し」「全員がその場にいることを楽しんで協力している」ようでした。
目的が共有できていれば、明確にリーダーを決めずとも自ずとメンバーが自律的に動き目的を達成できるという気づきを得たのでしょう。
2. 国際会議でのコーヒータイムの話し合い
オーエンがある国際会議を企画・運営したときのこと、会議の終了後に参加者から意見を聞くと、多くの人から「会議そのものも素晴らしかったが、本当に有意義だったのはコーヒー・ブレイクの時間だった」と言う感想が寄せられました。
会議から与えられたテーマではなく、自ら興味のあるテーマを共有する方がより有意義な時間になるという学びでした。
このようなアフリカでの自主性を重んじた成人式や、コーヒー・ブレイクの時間の真価を会議そのものの運営に活かせるよう開発されたのがOSTです。
OSTの特徴
OSTには次の特徴があります。
- 参加者の自発性が尊重される
- 思いや情熱を伝え、仲間を募ることができる
- 最も貢献できるテーマに移動できる
- ダイアログ(対話)によって、個々の違いを超えた深い合意に導く
- 参加者が十分に貢献できる環境を大切にする
- 主体的な行動を喚起するグラウンド・ルールを共有する
日々の権限によって集められた仕事とは違い、プロジェクトに対する思いに共感して自ら集まった仲間たちと問題解決を経験することで、権限に頼らないリーサーシップを育みます。
OSTのルール
OSTには「4つの原則」や「移動性の法則」と呼ばれるグラウンド・ルールがあります。
オープニングや掲示物などで参加者にグラウンド・ルールを周知します。
■ 4つの原則
参加者全員が守るべき約束事として4つの原則が定義されています。
1. Whoever comes is the right people.
ここにやってきた人は、誰もが適任者である。
もし地位の高い人や専門家がいなかったとしても、決して「この分科会※に集まったメンバーでは成果が出ない」などと言い訳してはいけません。目の前のメンバーで力を合わせて創造的に考え最大限の成果をあげることが「関係性の質」や「思考の質」を高め、対話の質を向上します。
※分科会: OSTの中で参加者がグループになって話し合いを行う場のことを言います。セッションとも呼びます。
余談ですが、元マサチューセッツ工科大学教授のダニエル・キムさんが提唱した "成功循環モデル" では、結果を出して成功するには、いきなり結果を求めるのではなく、まずは遠回りに見えても、メンバー相互の「関係性の質」を高めることが大切だと説明しています。「関係性の質」が高まると、お互いの意見を結びつけて創造的に考えるようになり、「思考の質」が高まります。「思考の質」が高まると「行動の質」が向上し、それが少しでも良い結果(「結果の質」)に繋がるとメンバーの相互信頼が深まり、「関係性の質」が向上するという好循環です。

今いない誰かに依存するのをやめ、今ここにいる自分たち自身で場を動かす姿勢で対話に臨みます。もし必要な人がいるのであれば、ミーティングが終わってから、その人に協力を得られるように働きかけましょう。
2. Whatever happens is the only thing that could have.
何が起ころうと、それが起こるべき唯一のことである。
OSTの対話には「こうなるべき」といった結論はありません。話が進まないこともあるでしょう。しかし、予定調和を目指すのではなく、「今起こっていること」に集中すると、むやみに意見を否定せず、新しい可能性が開けてきます。
3. Whenever it starts is the right time.
いつ始まろうと、始まった時が適切な時である。
時間には、客観的な時間としての「クロノス」と、集中していると時間の流れを忘れてしまうような主観的な時間としての「カイロス」があります。
やる気や創造的なアイデアは必ずしも「クロノス」の時間に現れるわけではありません。なので、話が進まなかったり、いいアイデアが生まれなくても不安になる必要はなく、焦らずにじっくりと話し合いを進めます。
4. When it is over, it is over.
いつ終わろうと、終わった時が終わりの時である。
予定していた時間より早く結論が出た場合、ダラダラと会議を続ける必要はありません。逆に、予定していた時間で終わらなければ、場所を変えて話し合いを続けてもいいですし、別の時間と場所を設定しても構いません。
■ 移動性の法則「蝶」「蜂」
分科会に参加して、"学んでいない"、"貢献していない"、"楽しくない" と感じたら自由に移動するべきです。 これを移動性の法則といい、「蝶 (ちょう)」と「蜂 (はち)」で表されます。
蝶(ちょう)
ある分科会から別の分科会に移動する人のことです。他の分科会で話し合われている内容を伝えることで、アイデアの交配を手助けします。
蜂(はち)
どの分科会にも参加しない人のことです。会場の中を動き回ったり、コーヒーを飲んでリラックスしたり、もしかしたら、話し合いが始まって新しい分科会が生まれるかもしれません。
キリン
自分が期待していた話し合いではないからといって、参加しながら他の分科会の様子をうかがうことは好ましくありません。もし期待したものでなかった場合は移動すべきです。
■ ダイアログによる合意形成
OSTのテーマは答えが自明ではないので、「ディスカッション(議論)」ではなく「ダイアログ(対話)」によって合意を形成します。
「ディスカッション」は自分の意見が正しい前提で、相手の間違いを証明し、自分の主張を通すように努めます。
「ダイアログ」では "誰もが良いアイデアをもっているはずだ。それらを持ちよれば良い解決策が見出せるだろう。" と言う前提に立ち、自説にこだわることなく、相手の話に耳を傾け、良いアイデアを探究するように努めます。
ダイアログの合意形成では、メンバーの意見の違いを明確化して「儀式」の場から「対立」の場へと導き、意見の相違がなぜ生じているのかを考える「探究」の場へと導きます。探究が深まることでグループ内で同じ思考ができる「生成的ダイアログ」の場が生まれ、個々の違いの先にある深い合意に達することができます。
OSTの事前準備
企画
企画段階では次の観点を検討します。
- 目的:なぜOSTを開催するのか?
- 目的:OST終了後に何が達成されているのか?
- 目的:OST終了後◯ヶ月後にどのような状態になっているのか?
- 企画・運営チームのメンバー
- 参加者
- 参加者のレディネスを高める方法(参加者はテーマに情熱を持っているか)
- 会場の条件(メイン会場の広さ、分科会の会場数など)
- 日数と時間割
まずは「なぜOSTを開催するのか?」という開催目的を明らかにします。「新製品の開発」「エンジニア部門の生産性を上げる」「顧客サービスの向上」など様々です。 目的が曖昧だと、参加者もどのようなテーマを出して良いのかわかりづらくなりますので、OSTを企画するにあたり目的を明確化することは大切です。
事前に参加者にはOSTの目的を共有します。参加者が目的について理解し、テーマに対して情熱と責任感を持ち、心の準備ができている状態を「レディネス」と言います。
準備物
事前に以下のものを準備します。
オープニング等で必要なもの
オープニングなどに必要なものは以下の通りです。
- 掲示物(4つの原則、移動性の法則など)
- 時間と場所のマトリックス表
- 付箋(最初にテーマを書きます)
事前に時間と場所の表(time/space matrix)を作成しておきます。縦軸を時間、横軸を場所として、テーマが書かれた付箋を貼れるように枠だけ作成しておきます。

分科会に必要なもの
使用する会議室や会議卓の数分だけ以下のものを用意します。なお、本書では100名に対して5部屋が一般的とされており、テーマが想定より増えてしまった場合に備えて、いくつかのスペースも用意しておく必要があります。
- テーブルと椅子
- ホワイトボード
- マーカー
- 模造紙(もしくはPCでまとめる)
OST当日

1. オープニング
参加者は円形に並べた椅子に座ります。足りない場合は二重、三重に並べます。参加者同士の顔が見えることで安心感を生み、また、円形に座ることで上座も下座もなく、日頃の立場から離れたフラットな関係性の中に身を置くことにより参加者が自由な発言と行動を取りやすくなる効果があります。(そもそも対等な話し合いができる場を作れることが明らかな場合は円形に並べなくても構いません)
ファシリテーターは円の中央に立って、OSTの「開催に至るまでの背景」「目的」「4つの原則」「移動性の法則」を説明します。
2. テーマ出し
情熱を持っていて話し合いたいテーマを持っている参加者は、円の中央に出てきて、名前とテーマを付箋に書き、読み上げます。読み上げたら、事前に用意してあった時間と場所の表に付箋を貼ります。すぐにテーマが出ないこともありますが、ファシリテーターは辛抱強く待つべきです。
注目が集まる中で立ち上がって前に出ることは勇気がいることです。OSTではこの前に出る行為を「ヒーローズ・ジャーニー(英雄の旅)」と呼び、OSTは積極的に前に踏み出す勇気を示せるリーダーの素養を育みます。
3. マーケットプレイス
提案者以外の参加者は、自分にとって重要な意味があり貢献したいと思うテーマを選びグループを作ります。
参加者同士で話し合いを行い、自分が参加したい分科会が同じ時間帯で重複していたり、話し合う順序を変えたほうが良いもの、似たようなテーマなどの問題を感じたら、テーマの提案者に相談します。最終的には提案者の判断を優先します。
もし提案者が「ひとり分科会」になった場合、ひとりでテーマを検討してもいいですし、他の分科会に参加しても構いません。ひとりで検討していても、他の分科会から移動してきて集まることもあります。
4. 分科会
グループごとにそれぞれの決められた場所に移動して、自主的に分科会の話し合いを運営します。本書では分科会の時間を1時間半としており、できれば45分程度は確保したいところではありますが、30分を2回行うなど、開催側での都合で調整しても構いません。
役割分担を決めてから話し合いを始めます。ファシリテーター、書記、タイムキーパー、議事録作成の担当を決めます。提案者がファシリテーターになってもいいし、別の人に頼んでも構いません。ただ、リーダーの責任において必ず議事録を残すようにしてください。
議事録は後ほど全員に共有して、全員が読めるようにします。
マーケットプレイスと分科会を繰り返します。
5. クロージング
OSTの最後に、オープニングと同様に円形の椅子に座り、感想を述べ合います。
開催側の注意点
コントロールを手放す
OSTは参加者の自主性を重んじるワークショップです。マーケットプレイスや分科会にはできる限り介入せず「オープンさ」や「フラットな関係」の場を維持することに努めます。
混乱していても耐える
OST(マーケットプレイスや分科会)では意見の食い違いによりしばしば混乱が生じ、そして新しい秩序が生まれます。
このプロセスについて、心理学者のクラエス・ヤンセンは "4つの部屋(Four Rooms of Change)" を用いて説明しています。

「満足の部屋」では現状に満足し、周囲との調和が取れていてリラックスしている状態です。ここでは特定の課題意識や変化へのモチベーションはあまり生まれません。しかし、自分と異なる意見、新しい環境、あるいは変化の兆しに遭遇したとき、人は無意識に防衛本能が働き「自分には関係ない」「今のままでいい」と新しい現実から目を背けようとします(「否認の部屋」)。そして、新しい考えを受け入れざるを得なくなったとき、古い価値観と新しい価値観の間で板挟みになり、不安、迷い、葛藤、無力感などを抱えます。居心地は非常に悪いですが、変化や成長のためには避けて通れない重要なプロセスです(「混乱の部屋」)。この葛藤を乗り越えると、矛盾や対立を超えた新しい考えが生まれます(「再生の部屋」)。インスピレーションが湧き、具体的なアイデアや新しい行動が生まれ、再び「満足の部屋」へと向かいます。
OSTでは、混乱の中からリーダーが出現することを理解して見守ることが求められます。
カスタマイズしてもOK
OSTでは各組織や開催場所に合わせてカスタマイズすることも認められています。本書でもいくつかの事例が紹介されていました。
モビルスでもモビルス流にカスタマイズを加えて実施しました。ただし、変更するにあたり、次のエッセンスは必ず守るようにしました。
- 提案者が熱量を持って話せるテーマとすること
- 議論ではなく話し合いをすること
(詳細についてはWantedlyの記事をご覧ください)
実施してみた感想
実際に学びの場としてOSTを開催しましたが、実施直後の今の感想としては「やってよかった」と思います。これからアンケートの回答などをまとめますが、私個人としても普段は話す機会のないメンバーと意見を交えたり、考え方や人となりに触れることができ、今後の仕事の仕方も変わっていくのではないかと思わせてくれるような、そんな会になりました。
この記事が、みなさまの組織でのOSTの取り組みのきっかけにしていただけたのなら幸いです!
(Review by YUYA528 - Thanks!)